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大阪高等裁判所 昭和24年(ネ)423号 判決

控訴人 原告 宮脇右一郎

被控訴人 被告 兵庫県農地委員会

一、主  文

原判決を取り消す。

本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

二、控訴の趣旨

原判決を取り消す。被控訴人が昭和二十四年一月二十九日兵農地委発第五二号訴願裁定書再審議陳情の件について爲した決定を取り消す。被控訴人が昭和二十三年十二月二日附で爲した控訴人の訴願を棄却した裁決及び兵庫縣美曩郡別所村農地委員会が昭和二十三年十月十九日別紙表示の土地について爲した買收計画を取り消す。訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とする。

三、事  実

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、控訴の趣旨第三項記載の訴願棄却の裁決及び買收計画は、同第二項記載の再審議陳情に対する決定によつて実質上取り消されたものであるが、右再審議陳情に対する決定が取り消されるときは右訴願棄却の裁決及び買收計画は復活し取り消されなかつたこととなるので右再審議陳情に対する決定の取消を求めると同時に右訴願棄却の裁決及び買收計画の取消を求めるもので、訴訟法上は請求の拡張となり、予備的にこれが取消を求めるものではない。控訴人が本件買收計画に対し昭和二十三年十月二十五日異議の申立をなし、同年十一月六日異議却下の決定があつて、同月十三日被控訴人に対し訴願を提起し、同年十二月二日附で訴願棄却の裁決があり、同裁決書は昭和二十四年一月二十九日控訴人に送達されたので、同日から一ケ月内に右訴願棄却の裁決及び買收計画の取消の訴を提起することができたのである。

然るに一方控訴人は昭和二十三年十二月十七日被控訴人に右訴願棄却の裁決に対し再審議陳情をしていた結果、昭和二十四年二月九日実質上右訴願棄却の裁決及び買收計画を取り消す趣旨の決定書の送達を受けたので、同日から一ケ月内である昭和二十四年二月二十八日右再審議陳情に対する決定の取消を求め、右決定が取り消され、右訴願棄却の裁決及び買收計画が復活した場合それらに対する出訴期間が進行すべきものであるから、その場合を考慮し、請求を拡張してそれらの取消をも同時に求めたものであつて、再審議陳情に対する決定によつて取り消された訴願棄却の裁決及び買收計画に対し、直ちに法定期間内に出訴しなければ不適法であるというが如きは不可能を強うるものである。なお控訴人主張の再審議陳情に対する決定は昭和二十四年法律第二一五号による改正前の農地調整法第十五條ノ十八第一項の再決議である。即ち控訴人は昭和二十三年十二月二日附兵農地委裁第四八六号を以て爲された訴願棄即の裁決に対し同月十七日適法な再審議の申立をしたので、兵庫縣知事は再議の指令を爲し、被控訴人は議案第二六七号訴願裁決再審議の件として再議に附した結果、原案どおり承認と決定し、その結果を兵庫縣農地委員会長兵庫縣知事岸田幸雄名義で書面に作成して控訴人に送達した。仮に兵庫縣知事が別個の書面を以て再議の指命を爲さなかつたとしても同縣知事は同時に被控訴委員会の代表者であるからその再審議を主宰したこと自体がその指令を爲したものと解さねばならぬ。たまたま兵庫縣知事である岸田幸雄が差支のため代理人が代つて再審議を主宰したとしても右の論断に変りはないと述べ、被控訴指定代理人において行政訴訟中抗告訴訟は行政廳の違法処分によつて権利を毀損せられたことを理由としてその取消変更を求めるものであつて、その訴訟提起の要件として(一)行政処分の存在すること、(二)行政処分が違法であること、(三)行政処分が相手方の権利を毀損するものであること、(四)その他の事項等の要件を具備しなければならないが、再審議陳情に対する通知が何等法令に從つてなされた行爲でなく、法律上の効果の発生を目的としてなされたものでもないから、行政処分とはいわれない。仮に行政処分であるとしても何等違法の点がなく且つ相手方の権利を毀損するものでないからこれが取消を求める訴は失当である。本件訴願棄却の裁決及び買收計画の取消請求の訴が提起せられたのは昭和二十四年七月十四日であつて、右は控訴人がその裁決処分を知つたものと推定せられる昭和二十三年十二月二日から起算し一ケ月以上を経過しているばかりでなく、買收計画取消の訴は別所村農地委員会を相手方とすべきに拘らず被控訴人に対しこれが取消を求めているのはこれ又不適法であつて却下を免れない。なお控訴人が本件買收計画に対し昭和二十三年十月二十五日異議の申立を爲し、同年十一月六日異議申立却下の決定があつて、同月十三日被控訴人に訴願を提起し同年十二月二日附で訴願棄却の裁決があり、同裁決書が昭和二十四年一月二十九日控訴人に送達せられたことは爭わないと述べた外原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(立証省略)

四、理  由

兵庫縣美曩郡別所村農地委員会が昭和二十三年十月十九日別紙表示の土地を控訴人所有の農地と認定した上その買收計画を定め、翌二十日公告したところ、控訴人が同月二十五日異議の申立を爲し、同年十一月六日異議申立却下の決定があつて同月十三日被控訴人に対し訴願を提起し、同年十二月二日附で訴願棄却の裁決があり、同裁決書が昭和二十四年一月二十九日控訴人に送達せられたこと及び控訴人が昭和二十三年十二月十七日右訴願棄却の裁決に対し再審議陳情を爲し、これに対し被控訴人が昭和二十四年二月九日兵農地委第五二号を以て控訴人主張の如き内容の文書を送達したことは当事者間に爭がない。

よつて右再審議陳情に対し控訴人に送達せられた文書の内容が行政事件訴訟特例法にいわゆる行政処分といいうるか否かについて考えて見るのに、行政廳が一且訴願に対し裁決を爲したときは関係人からこれが取消変更を求むるの外自らその取消変更を爲し得ないことを原則とし、只だ農地調整法第一五條ノ二八(昭和二十四年法律第二一五号による改正前の農地調整法第十五條の十八)の如き特別の規定ある場合においてのみ例外として自らその取消変更を爲し得べきものであるところ、成立に爭のない乙第四号証、同じく甲第一、第二号証、第五号証の一、二、三に依れば控訴人の前記再審議陳情に対し被控訴人は兵庫縣知事の再審議指令を俟たず、これを議案第二六七号訴願裁決再審議の件として昭和二十四年一月二十九日の第二十八回兵庫縣農地委員会の議題として上程し審議の結果、原審(前決定どおりであるが該地を原野として登記したことは不適当であり、該地は不在地主近藤の所有地として買收することが適当である)どおり承認と決定し、同日附兵庫縣農地委員会長兵庫縣知事岸田幸雄名義の訴願裁定書再審議陳情の件と題し「昭和二十三年十一月二十九日附兵庫縣農委裁第四八六号裁定書について元訴願人宮脇右一郎より再審議の陳情ありたるも、その理由認め難く前決定のとおり買收すべきものとするも、訴願人が昭和二十二年十二月原野として前所有者近藤とみゑより取得せる所有権は、農地調整法に違反せるものなるを以てその所有権移轉登記は抹消し、前所有者より買收すべきものとする」と記載した文書を控訴人に送達したことを認めることができる。而して右再審議陳情に対して爲された決定は同決定を爲すに至つた手続は違法ではあるが、それ自体勧誘、注意、好意的仲裁の如き單純な事実的行爲と同視すべきではなく、被控訴人のなした意思表示即ち行政処分と認むべきであつて、その表示せられたところが即ち法律上有効な意思にもとずくものとみなされ、これに対して表意者において眞実の意思にもとずくものでないことを主張し得べきでない。而も右手続の違法によつては同決定をもつて当然無効とすべきでないから、その限度において本件買收計画は一部変更せられたものといわなければならない。

次に本訴が法定期間内に提起されたか否かについて考えて見るのに、買收計画に不服ある者は買收計画の取消を求むると、或は訴願棄却の裁決の取消を求むると、或は再審議陳情に対する決定(但し買收計画を維持しまたは一部変更した決定)の取消を求むると、いずれの方法によつてもその権利の保護を求めうべく、而も右いずれの訴も買收計画の違法を理由とする限り結局実質的には国を相手方として買收計画の取消を求めることを目的とする同一の事件であつて、單に形式上の相手方の表示及び請求の趣旨の表示を異にするだけであつて一の訴を他の訴に変更することは形式的なものに過ぎないから、最初に提起せられた訴が出訴期間内に提起せられた以上、出訴期間経過後他の訴に変更せられても依然適法な訴として繋属するものと解する。控訴人が本件買收計画が農地でないものを農地と認定した違法と、買收すべき土地の所有者を誤つた違法とを理由として再審議陳情に対する決定の取消を求め、次いで請求を拡張して右と同一理由にもとずいて被控訴人の爲した訴願棄却の裁決及び本件買收計画の取消を求めたことは本訴状及び昭和二十四年七月十四日受付の訴変更の申立書の記載によつて明白であるが、この場合控訴人はいずれか一の訴によつてその権利の保護を全うしうべく而も右三個の訴は同一の事件であるから形式上いずれの訴にも変更しうるもので最初に提起せられた訴が出訴期間内に提起せられた以上右期間経過後に他の訴に変更せられても依然適法な訴として繋属するものというべく本件再審議陳情に対する決定が控訴人に送達せられたのは昭和二十四年二月九日であるから同日から起算し一ケ月内である昭和二十四年二月二十八日(訴願棄却の裁決が控訴人に送達せられた昭和二十四年一月二十九日から起算しても一ケ月内である)に提起せられた本訴は適法であつて、その後請求の趣旨を拡張して爲された訴願棄却の裁決及び買收計画の取消の請求は本來の請求と併せて請求する何等の必要も認めないが、いずれか一の訴殊に買收計画取消の訴に変更する趣旨ならばこれ又適法であつて適当な措置といわなければならない。從つて原裁判所は控訴人のなした訴変更の趣旨がそのいずれであるかを釈明し、本來の請求と併せて請求するものならば二重訴訟として却下すべく、單にそのいずれか一の訴に変更するものならばこれを許して更に実体上の審理を爲すべきものと解する(本件の場合控訴人は買收さるべき土地の眞の所有者として別所村農地委員会を相手方として買收さるべき土地の所有者を近藤とみゑとする買收計画取消の訴を提起することが最も簡明にして捷徑であるから差戻後においては右の如く相手方及び請求の趣旨の表示を変更すべきものである)。

然るに再審議陳情に対する決定を行政事件訴訟特例法にいわゆる行政処分でないからその取消を求める請求は失当であるとしてこれを棄却し、訴願棄却の裁決及び買收計画の取消を求むる訴は出訴期間経過後に提起せられた不適法なものとして却下した原判決は、いずれも失当であつて本件控訴はその理由があるのでこれを取り消し、なお右は控訴人の釈明如何によつていずれか一の訴に帰一し事件についてなお弁論をなすことを必要とするので、全部これを神戸地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決したのである。

(裁判官 大嶋京一郎 林平八郎 大田外一)

(目録省略)

原審判決(昭和二四、九、二六言渡)

主文

被告が別紙目録記載の土地について昭和二十四年一月二十九日兵農委発第五二号をもつてなした訴願裁決再審議陳情に対する決定の取消請求は、これを棄却する。

右土地について、被告が同二十三年十二月二日なした原告の訴願棄却の裁決、並に兵庫縣美嚢郡別所村農地委員会が定めた農地買收計画の各取消請求の訴は、いづれもこれを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「(一)被告が別紙目録記載の土地について昭和二十四年一月二十九日兵農委発第五二号をもつてなした訴願裁決再審議陳情に対する決定は、これを取り消す。(二)右(一)の請求の理由がないときは、右土地について被告が同二十三年十二月二日なした原告の訴願棄却の裁決、並に兵庫縣美嚢郡別所村農地委員会が定めた農地買收計画は、いずれも之を取り消す。(三)訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

兵庫縣美嚢郡別所村農地委員会は、昭和二十三年十月二十日頃、別紙目録記載の土地を原告所有の農地と認定した上その買收計画を決定公告したので、原告は、右買收計画に対し同委員会に異議の申立をなしたが、同年十一月六日却下されたから、之を不服として更に被告に訴願したところ、同年十二月二日之亦棄却の裁決を受けた。

そこで、原告は同月中旬被告に対し右裁決につき再審議の陳情をなしたところ、昭和二十四年一月二十九日附兵農委発第五二号をもつて、「原告の陳情した理由は認め難く、前決定通り買收すべきものであるが、原告が昭和二十二年十二月前所有者近藤とみゑから本件土地を原野として取得した所有権は、農地調整法に違反したものであるから、その所有権移轉登記はこれを抹消し、前所有者から買收すべきものとする」旨の決定書を被告から受領した。ところで、右決定は、原告の陳情に基づいてなされたものとは云え、その実質は昭和二十四年法律第二百十五号による改正以前の農地調整法第十五條の十八第一項に基く再議決であり、仮にそうでないとしても、同法に認められた再審議決定であり、且つ、右決定は前訴願裁決と一致していないから、前裁決はここに取り消され右決定のみが効力を有し、それは原告に対し、本件土地の所有権取得を否認する効力を有する行政処分であると謂はねばならぬ。然しながら、右決定は、買收すべきでない土地を農地と認定し、その所有者を訴外近藤とみゑと認定した違法がある。

すなわち、本件土地は、昭和九年頃訴外田中彌藏において前所有者と小作契約を結び耕作していたことはあるが、省線石野駅の構内地に接続しているところから、その後附近に建造物も漸次増加し周囲の環境からして農地としての條件と價値を失うにいたり、同十二年以來、全く收穫できない状態となり、もつとも同十八年頃食糧増産の爲婦人会が開墾して麦蒔をしたこともあるが、收穫皆無に近く、同二十年二月頃からは軍が土木資材の置場に使つていた実情にあり、一方原告は、右石野駅前で農器具製作工場を経営し、作業場、倉庫の敷地として本件土地を必要としたので、別所村農地委員会に、右土地が原野であるとの承認を得た上、同二十二年十二月十日、その所有者近藤とみゑから右土地を買受け、所有権移轉登記を完了したものであり、当時右土地は地目は勿論、現況も農地ではなかつたのである。從つて、本件土地は原野であつて農地買收の対象となるものでないのみならず、原告の所有権取得は、何等農地調整法に違反するものでもない。

もつとも、訴外宮脇恒生が、昭和二十二年十二月三十日から右土地の一部を、同二十三年十二月二十三日から残余の部分をそれぞれ開墾耕作しているが、何等正当の権限に基くものではないから、これが爲右土地が農地となることはない。

以上の理由で、被告のなした再審議陳情に対する決定は、違法の行政行分であるから、その取消を求める。

仮に、右決定により、前記被告の訴願棄却の裁決、並びに別所村農地委員会の買收計画が取り消されたものでないとすれば、右裁決及び買收計画は、前記の理由により、本件土地を農地と認定したか、ないしは農地であるとすれば、その所有者を、訴外近藤とみゑでなく、原告と認定した違法があるから、その取消を求める次第であると述べた。

被告指定代理人は、「本訴はこれを却下する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

美嚢郡別所村農地委員会が原告主張の各日時、本件土地につき原告主張のような買收計画を決定公告し、これに対する原告の異議申立を却下する旨決定したこと、被告が原告主張の頃右決定に対する原告の訴願を棄却する旨裁決したこと、更に被告が、右裁決に対する原告の再審議陳情は、その理由を認め難い旨決定通知したことは認める。

然し、右決定は、法令を適用してなした行爲ではなく、法律上の効果発生を目的としてなしたものではないから、行政事件訴訟特例法にいわゆる行政廳の処分に該当しない。從つて、再審議陳情に対する決定の取消を求める原告の請求は失当である、と述べた。

理由

兵庫縣美嚢郡別所村農地委員会が、昭和二十三年十月二十日別紙目録記載の土地を原告所有の農地と認定した上その買收計画を決定公告し、同年十一月六日右買收計画に対する原告の異議申立を却下する旨決定したこと、被告が、同年十二月二日頃右決定に対する原告の訴願を棄却する旨裁決したこと、更に被告が昭和二十四年一月二十九日附兵農委発第五二号をもつて右裁決に対する原告の再審議陳情はその理由を認め難い旨決定通知したことは、いずれも当事者間に爭がない。

先ず、再審議陳情に対する決定の取消請求の当否について審査するに、右決定は次の理由により行政事件訟訴特例法にいわゆる行政廳の処分とは解し得ない。すなわち、自作農創設特別措置法によれば、都道府縣農地委員会の訴願裁決に対する行政上の不服申立方法を認めた法規なく、かえつて、同法が農地買收計画に対する行政上の不服申立方法を異議申立及び訴願に限定し、且つ、その不服申立期間をそれぞれ十日に制限することにより、短期間内に買收計画に対する農地所有者のすべての不服を解決し、もつて自作農創設事業を迅速に断行することを企図しているのであるから、原告は買收計画に対し異議の申立更に訴願をなした以上、同法第四十七條の二に法定された期間内に司法裁判所に対し、行政処分の違法を主張してその取消変更を訴求するは格別、これを措いて他の行政上の救済手段によることは、法律上認められぬところと解するを相当とする。從つて原告の前記再審議陳情は、被告に対し、先になした裁決の取消変更の職権の発動を促す意味を有するに止まり、被告は必ずしもこれに対し許否の應答をなすの要なきものである。從つて、又被告が原告の再審議陳情に対しその理由を認め難い旨、通知し、これを決定と称したからと云つて、その通知を法律上の効力を有する行政処分とは解し得ないのみならず、これを目して原告主張の改正以前の農地調整法第十五條の十八第一項の再議決であるとは解し得ない。もつとも原告は、右決定には「原告が昭和二十二年十二月前所有者近藤とみゑから、本件土地を原野として取得した所有権は、農地調整法に違反した無効のものであるから、その所有権移轉登記はこれを抹消し、右近藤とみゑから買收すべきものとする」旨の記載があり、これは原裁決を変更するに新たな行政処分である旨主張するのであるが、仮にその主張通りの記載のある通知であつたとしても、当裁判所に係属中の原告宮脇右一郎被告兵庫縣知事間の昭和二十四年(行)第四三号土地買收取消請求事件訴訟記録添附の同年三月九日附兵庫縣報によれば、兵庫縣知事岸田幸雄が本件土地につき、原買收計画通り原告からこれを買收した旨告示していることは、当裁判所に顯著な事実であり、この事実に原告主張の通知内容の全趣旨を斟酌すれば被告は右決定において訴願裁決を変更したものでないことを推認し得べく、結局原告主張の記載事項は單なる被告の見解の表明にすぎず、法律上の効果の発生を目的としてなされたものではないと解するを相当とする。從つて、右決定を行政処分であるとの前提にたつ原告の第一次的請求は、他の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

そこで進んで訴願裁決並に買收計画の各取消請求の訴が適法の期間内に提起されたか否について審査しよう。原告が右取消を申立てた「訴変更の申立書」の当裁判所の受付印によれば、右訴が昭和二十四年七月十四日に提起されたことが明らかである。從つて、原告が訴願棄却の裁決を受けたことを自認し、從つて、原告がその処分を知つたものと推定される昭和二十三年十二月二日から一ケ月以上経過後に、訴が提起されたことになるから、右訴は不適法であり、且つその欠缺はこれを補正するに由ないから、もとより却下を免れない。

以上の理由で、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 古川靜夫 中島誠二 保津寛)

(目録省略)

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